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  11.通信の道具 Communication tools
真空管のお話
Vacuum Tubes

 ●真空

 紀元前4世紀にギリシャの哲学者ソクラテスやプラトンにより既に真空についての議論がされていました。そして約2千年後の西暦17世紀にイタリアのガリレオとトリチェリが実験を行い、真空を作り出すことに成功します。そして1650年にドイツのゲーリケが真空ポンプを作り上げます。真空中では音が聞こえない・火が消える等の実験を行いました。また真鍮で作った半球を2つに合わせて中を真空にして、それを16頭の馬で引っ張って外そうとしたのですが、2つに外れることがなかったのです。


真空にすると馬が引いても外れないマクデブルグの半球

 地球上の大気は窒素や酸素等の分子で満たされており、これらの分子を排出して気圧を下げていくと真空度が上がっていきます。地表近くの大気圧である1気圧より低ければ真空状態となり、真空の度合いにより、低真空、中真空、高真空、超高真空、極高真空に分れます。

 

 ●真空管

 電球はフィラメントの温度を2,000度から3,000度位まで上げて発光させます。酸素があればフィラメントが焼き切れてしまい、残留分子があればそれと反応してフィラメントの寿命が短くなるためバルブ内を真空にしたのですが、白熱電球は真空管とは呼びません。1913年には希ガスを封入するようになったこともありますが、電球は一般的にLight bulb= 電球と呼ばれてきました。

 真空管もフィラメントがありますが、こちらは600度~800度程度まで温度を上げて熱電子を飛ばすのに使います。フィラメントが酸化して熱電子の飛びが悪くならないように高真空にします。1904年に英国人のフレミング考案した2極真空管はFleming valveと呼ばれました。

辞書を見ると真空管は英国ではValve、米国ではVacuum tubeとあります。Valveは弁という意味もあり、電流を制御する意味でこうしたのでしょうか。電球と同じくbulbと表現されることもあるようです。



左が真空管、右が電球

電球と真空管が誕生した経緯は「真空管とあかりのお話」をご覧下さい。

 真空管も電球と同じく点灯すると表現します。英語でも点灯=light upと表現されます。真空管のヒーターとしてのフィラメントもほんのりと赤みがかった光を発しますので、そこから点灯するという言葉が来たものと思います。電球と真空管が兄弟であることの証ではないでしょうか。

 

 ●2極真空管の原理

 物質には沢山の電子があります。この電子は常温ではなかなか外に出ることができませんが、温度を上げると、熱が電子に伝わり、電子が活発に動き始めます。温度が上がるにつれて電子は非常に活発になり、とうとうフィラメントの外に飛び出します。
 

 飛び出した電子はマイナスの電位を帯びていて、近くにあるプラスの電位のものに飛びつこうとします。丁度反対側にプラスの金属板があるので、そこに飛びつくのです。(もし金属板がマイナスだと反発してしまい、飛びつくことが出来きません。)

 電子が移動すると、今度はプラス側からマイナス側へと電流の流れが発生します。電子の移動とは逆の方向に電流が流れるのです。前者が電子をあげた方向(giving direction)で、後者が電子をもらった方向(taking direction)です。



電子の動きと電流の向き

 ●2極真空管の主な用途

 基本的な用途としては正と負の波形が交互に繰り返す交流を直流に変換する整流作用があります。


交流を直流に変換する整流機能

(整流後は脈流状態になるためコンデンサー等に通してなめらかな電圧に整えます。)

 

 

 またアンテナで受信した電波のマイナス側の波形を除去して再生可能な音声信号にする検波機能(鉱石ラジオの鉱石に同じ)があります。


1. アンテナで受信し、コイルで同調した高周波


2, 整流作用で一方向の電流が阻止されて脈流となる=これを検波と言います。


3, 高周波成分を取り除くと音声信号になりスピーカーで再生できます。


4. 空気が振動して音波として聞こえます。

 

 ●3極真空管

 1906年に米国人のリー・ド・フォレストが3極の真空管を考案します。これは陰極のフィラメントと陽極の金属板(プレート)との間にグリッドと呼ばれる格子状の金属を入れた3極の真空管です。このグリッドに電圧を掛けると、プレートからフィラメントに流れる電流の値が大幅に増えることがわかったのです。
 従来ヘッドセットで聞いていた通信音を、外付けのスピーカーで聞くことができるようになりました。

 そして真空管は4極管、5極管へと進化し、増幅効果も大幅に改善されていきます。

 

 ●通信機器に使われた真空管

 真空管は特に通信機器で大活躍しましたが、真空管が登場する前はどのように通信を行っていたのでしょうか。

 19世紀前半に電気を使った通信手段としてモールス信号が登場します。最初は有線ケーブルで送信・受信をしていました。その後火花式送信器により無線化されます。これにより船舶間で通信することができるようになります。日露戦争で日本海軍がバルチック艦隊を撃破した時に無線機の利用が戦局を大きく左右しました。当時世界最強と言われたロシアのバルチック艦隊は無線器ではなく、なんと手旗信号で指令を送っていたのです。日本軍の大勝利により無線機の重要性が世界中で認識されることになります。この火花式送信機は高電圧発生装置や火花を発生させる装置が必要で、船の無線室は危険極まりない環境でした。あかりの歴史でいけば電極がむき出しの初期のアーク灯を部屋の中で点灯しているようなものです。今で言えば電気溶接をしているようなもので、感電すれば死に至ります。これが真空管を使った無線機になったことで、安全でより安定した通信ができるようになったのです。

 第一次世界大戦では真空管は無線機に使われて活躍します。そしてアメリカでは帰国した兵隊が大量に余った無線機を使ってアマチュア通信を楽しみ、そして音楽を放送したりしたのですが、それがきっかけとなり、1920年にラジオ放送が始まるのです。それを支えたのが真空管でした。真空管で電波を発信し、そして受信した電波を真空管で検波・増幅して音として再生するのです。


米国Westinghouse社のラジオ放送局

 真空管は無線機から拡声器、ラジオ、レコードプレーヤー、テレビへと活用範囲が広がっていきます。真空管が人類に与えた恩恵は計り知れないものがあります。前ページでエジソン効果について説明しましたが、真空管の発明者であるエジソンはこのような世界が来るとは夢にも思わなかったことでしょう。

 

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