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ローマランプとその考察

江戸民具街道
アシスタント学芸員 
秋澤 傑

 ランプとろうそくのお話(1939年フレドリック・ウィリアムズ・ロビンズ氏著)の中にローマランプの章があり、「大英博物館ギリシャとローマランプの目録」に掲載されているローマランプのことが書かれています。偶然にも神田の古書店で1914年発行H.B.ウォルター著「大英博物館ギリシャとローマランプの目録」の原書を手に入れたのですが、その中に掲載されているローマランプの写真を見ながらボールペンで模写図を描いている内に、ローマランプの実物を手にしてみたいという気持ちが湧き上がってまいりました。幸いにもひょんなことからローマランプを1つ手に入れることができました。

  私が手に入れたローマランプは土の中に埋もれていたのか、表面には灰色の土が固くこびりついています。発掘後に固着した土をこすり取ったと思われる部分は残念ながら表面の釉が剥げ落ちて生地がむき出しとなっており、赤茶色の釉はほとんど残っておりません。ただし大きな欠損はなく、そのランプを手に取って見ますと何とも言えない雰囲気があり、約2千年前のローマ時代にこのランプが使用されていたのかと思うと感無量でありました。

  このローマランプは大英博物館のフォーム100、ハート形の筒口と輪形の取っ手が付いた型式に当てはまります。中央のくぼんだ部分には16枚の花弁が付いた花模様が入っており、外周には葉っぱのリースが浮き彫り模様になって入っています。(図1) 裏側の中央には丸い突起があり、尖った葉の模様が外向きに入っています。銘はありませんが筒口の根本に数珠模様があります。(図2)

  円盤部分の直径は8.5㎝、筒口から取っ手の先までの長さは11.5㎝で、手の上に載せると丁度持ちやすい大きさです。(図3) 輪形の取っ手が付いていますが穴に指は入らず、親指と人差し指で挟んでつまめる程度です。器部分の厚みは2.8㎝で、前から見るとまるで亀のようなイメージです。(図4)

  円盤の中央に注油穴がありますが、筒口に近い部分にもう1つ穴が開いています。(前図3を再度参照下さい。) 「大英博物館ギリシャとローマランプの目録」のH.B.ウォルター氏はこの2つ目の穴の役割として「空気の取り込み穴か、あるいはこの穴に灯芯を調節するための針を差し込んだ」と書いておられました。筒口に灯芯を入れて火を灯せば2つ目の穴から炎に向かって下側から空気の流れが発生する、というのは十分理解できるものだと思います。炎の下側から空気を取り込んで燃焼効率を上げる構造の石油ランプが19世紀に登場しますが、ローマランプがこの原理を先取りしていたと考えると、その科学的な構造に驚きを隠せません。

  ただし本当にこの2つ目の穴から灯芯の炎に向かって下から空気の流れが発生し、それにより燃焼効率を上げることができるのでしょうか。この貴重なローマランプに火を灯すのはさすがに気が引けましたので、江戸期の急須形のひょうそくを使って実験を行ってみました。このようなひょうそくには筒口の根本に穴が開いているものがあります。(図5) ここから空気が流れ込み灯芯の燃焼を助けるのかどうかを試してみました。

① ひょうそくに油を入れて、筒口に灯芯草を2本通し、そして火を灯しました。(図5)
② 炎が安定してから筒口根本の穴を指で塞いでみました。(図6) 
③ 次に指を離して穴から空気が入るようにしました。(図5)

  上記②と③の炎の状態を繰り返し観察しましたが、残念ながら炎の大きさに変化は見られませんでした。下からの空気の流れが発生せずとも炎の周りには十分な空気があり、灯芯2本程度の灯火では下側の穴から空気が入ろうが入るまいが炎の燃焼にほとんど変化はない、という結論に至りました。

  ただしローマランプに関していえば筒口の穴はかなり大きく、パピルス等の太い灯芯が使われた可能性があり、炎が筒口の中で燃えるような場合であれば穴から入った空気の流れが燃焼を助けることになる可能性は十分に考えられます。
なお、ひょうそくの筒口の穴を指で塞ぐ実験をした時ですが、筒口がともし火の炎で熱せられて高温になっており、もうすこしでやけどをするところでした。この穴から空気が入ることで筒口全体の温度を下げる役目を果たしている可能性も考えられます。高温にもろい材質のランプの場合には特に効果があるのではなかと思われますが、いずれにしましても大英博物館のH.B.ウォルター氏のいう空気の取り込み穴の効果は今回残念ながら確認することができませんでした。この2つ目の穴は「灯芯の長さを調整するために針等を入れるために開けた穴」と考えておくのが現時点では妥当かと思われます。
 

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