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江戸民具街道 
Japanese Folk Art Museum
Edo Mingu Kaido

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龍燈松の謎
Mystery of Ryutomatsu in Enoshima

 江之島の稚児ヶ淵には龍燈松の石碑が建っています。岩屋へと向かう階段の途中にあるのですが、その石碑の前で足を止めている観光客は少ないようです。さてこの龍燈松とはいったい何なのでしょうか?

  藤沢で江ノ電沿線新聞を刊行する吉田克彦著“湘南賛歌”の一節「龍燈ものがたり」に掲載されている龍燈に纏わる伝説を参照させて頂きます。「その昔、江の島の南端、稚児ヶ淵のほとりに一本の松があり「龍燈の松」と呼ばれていました。正月になると龍がやってきてこの松の木に登り龍火を灯して航海の安全をはかったと伝えられています。ところで天和元年(1681年)鯛屋七右衛門という人が下田の港を出帆して江の島沖にさしかかったところ俄に大嵐となりました。詮方なく弁天様に願をかけると海に燈火が現れ、その光をたよりに近づくと岩上の松の木に炎燈が掛かっていました。危うく助かった七右衛門はお礼のため、その松の下に燈籠を築き諸人の助けとしました。」

 七左衛門が見た炎燈とはなんだったのでしょうか。強風の中では油を使った燈火やろうそくではすぐに消えてしまいます。風に強いあかりの道具といえば“かがり”であろうと思います。鉄製の籠(かご)に“ヒデ”(松の根の部分で油脂を多く含む)を詰めて火を灯せば、風により炎がいっそう激しく燃焼します。七左衛門の話が史実だとすれば、その炎燈は“かがり”であった可能性が高いと考えられます。下記写真の“かがり”は引っ掛けて使うタイプのものです。柄の長い鉄の棒を松の枝に引っ掛けて、そこにこの“かがり”を吊るせば野外でもあかりも灯すことができるでしょう。

 「龍が松に登り龍火を灯した」という部分については伝説と言わざるを得ないと思いますが、岸壁の高所に突き出た松の木の先端に怪火が現れることを否定することもできません。

 稚児ヶ淵にあった松の木ですが、残念ながらどれも朽ちてしまったようです。古い資料に記述がないかと調べたところ、明治29年相模国鎌倉名所及江之島全図(銅版画)の中に龍燈松が記載されていました。下記写真は江戸民具街道が所有する江之島全図銅版画の復刻版から稚児ヶ淵の箇所を拡大したものになります。

 

 大正2年の稚児ヶ淵の絵葉書を見てみますと崖に松の木が生えていますが、これが龍燈松でしょうか?

 

 昭和初期と思われる稚児ヶ淵の絵葉書にも2本の松がはっきりと写っていました。その内の一本の松の木を見た時に龍が泳いでいるかのごとく見えたのです。江の島では海からの風で木が斜めになってしまうといいます。斜めになり、曲がりくねった枝とあいまって、松の葉のシルエットがどことなく龍を連想させます。この木が龍燈松であったらと期待はするものの、それはあくまでも想像にすぎませんが、もしこの木に掲げられたあかりがあったとすれば、それはまさに龍燈と呼ぶにふさわしいでしょう。

 

江之島は松の枝が被写体になるだけの美しい風景に恵まれています。下記の絵葉書はその一例になります。江の島を訪れる機会があれば、松の木の形に注意を払ってみるのもおもしろかろうと思います。

 

 江の島、松の写真コンテストでも開催すれば新たな龍燈松が現れるかもしれませんが、危険を冒す者が出ないとも限りません。もし稚児ヶ淵で“かがり”をたき、龍燈の再現をすることができるのであれば、江戸民具街道の“かがり”を喜んで持参したく思います。

 

参考文献: 江ノ電沿線新聞社発行、吉田克彦著 “湘南賛歌”  

 

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